お宝研究vol.11
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20研究テーマ名荒西 太士(汽水域研究センター・教授)田中 智美(汽水域研究センター・特任助教)堀之内 正博(汽水域研究センター・准教授)Futoshi Aranishi(Professor, Coastal Lagoon Research Center)Tomomi Tanaka(Contract Assistant Professor, Coastal Lagoon Research Center)Masahiro Horinouchi(Associate Professor, Coastal Lagoon Research Center)センター長:研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望Director : Management and preservation of the south-end natural population of Japanese smelt Hypomesus nipponensis in Lake Shinji 日本海側国立大学初の水産科学に関する高等教育研究組織として設置され,有用水産資源の開発,管理,保全,培養および増殖に関わる教育と研究を推進します。また,関係機関と協力して山陰地方の地域特性を考慮した研究成果の実用化を促進し,山陰水産業の持続的かつ安定的な振興に貢献します。 Shimane University established Fisheries Management Research Center (FMRC) as the fi rst institution of higher education and research of fisheries science in the National Universities along the Sea of Japan in 2014. FMRC delivers education programs and research projects for the development, management, conservation, aquaculture and breeding of valuable fisheries resources. FMRC also promotes the practical application of research results for sustainable fisheries production and stock enhancement in cooperation with governmental and non-governmental fi sheries organizations in the San-in Region. 日本以北の北太平洋周辺に分布するワカサギHypomesus nipponensisは,学名が示す通り日本固有の淡水魚資源であり,凍結した湖面での氷上のワカサギ釣りは寒冷地方の冬の風物詩として知られています。宍道湖の本種は,日本のみならず世界における在来個体群の分布南限であるとともに,「宍道湖七珍」に数えられる地域特産品でもあります。しかし,遺伝資源としても水産資源としても価値の高い本種ですが,1994年に急減して以降,現在まで「漁獲量の記録なし」という資源の枯渇状態が続き,絶滅が危惧されています。そこで,長野県諏訪湖からの移植仔魚を毎年放流していますが,資源は一向に回復せず,その放流効果が疑問視されていました。 このような状況の下,当センター設立前の2010年から宍道湖漁業協同組合と協力して本種資源の再生産構造を解析しました。その結果,宍道湖特有の遺伝子型をもつ個体(宍道湖型)と諏訪湖仔魚の遺伝子型をもつ個体(諏訪湖型)の共存を確認しました。つまり,放流効果はありました。それなら,資源が回復しない原因は何か?という究極の課題に当センター設立後の2014年から取り組んでいます。先ず考えたのが,宍道湖型と諏訪湖型の生態学的な相違でした。本種は遡河回遊型に分類されますが,人為的に陸封化でき,諏訪湖には100年以上前に陸封化された河川残留型しかいません。一方,両型が共存する青森県小川原湖や北海道網走湖,茨城県霞ケ浦では,遡河回遊型が河川残留型より大型化すると報告されています。また,最新の研究では,異なる生活史による体長の違いは遺伝子レベルでの変異に起因すると推察されています。そこで,2015年に宍道湖で漁獲した成魚49個体の遺伝子型と体長の相関を解析した結果,大型群30個体と小型群19個体の明瞭な2モードで構成されていました。大型群は全個体が宍道湖型であったのに対して,小型群は諏訪湖型の個体が優占していました。さらに,2015年の小型群と以前に調査した2011年の諏訪湖からの移植仔魚との間には遺伝的分化度に有意差が認められませんでした。即ち,前者は後者の子孫であったということです。 最先端技術の遺伝子解析を導入した一連の研究により現在の宍道湖における資源実態の詳細を解明しました。本知見は宍道湖の分布南限個体群を再生する鍵になると期待されています。宍道湖のワカサギ分布南限個体群を守るFisheries Management Research Center水産資源管理プロジェクトセンター

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