お宝研究vol.11
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30尾添 嘉久(生物資源科学部・教授)Yoshihisa Ozoe (Professor, Faculty of Life and Environmental Science)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望 神経伝達物質γ-アミノ酪酸(GABA)によって開口する昆虫のイオンチャネル(GABACl)の機能解析を行い,このチャネルが新規有害生物防除剤の重要な標的であることを明らかにしました。 Functional analysis of insect ion channels gated by the neurotransmitter γ-aminobutyric acid (GABA) revealed that they serve as important targets for novel pest control agents. 農業薬剤(農薬)は,安定した食料生産のための必須な農業資材として使われています。世界の人口は増加し続け,2050年には90億人に達すると予測されています。そのような中で,持続的食料供給の助けとなる農薬の役割は益々大きくなるため,その研究は非常に重要であると考えられます。 農作物にはその生育を妨害する多くの生物(害虫,病原菌,雑草など)が発生します。それらを防除するために農薬が用いられています。これまでに農薬の種々の作用点が明らかにされていますが,殺虫剤の主要な作用点として,神経・筋細胞に存在する様々なイオン透過チャネルがあります。近年の科学技術の発展により,イオンチャネルの構造情報を含む遺伝子を人や昆虫から単離し,培養細胞などに導入して個々のチャネルを再構成し,その機能を調べることが容易にできるようになりました。また,X線や電子顕微鏡を使ってチャネルタンパク質の構造を原子レベルで調べることも可能になりました。このような最新の技術や情報を利用すれば,精密に安全設計された薬剤を創製することも夢ではありません。 生命工学第4研究グループでは,抑制性神経伝達物質であるGABAの結合によって開口する陰イオンチャネル(GABACl)(下図)の基礎研究を長年行ってきました。このチャネルには複数の低分子化合物の結合部位が存在し,結合する化合物によってチャネルはコントロールされることが明らかになってきました。しかも,その作用点の構造には動物種間の違いがあり,害虫のGABAClを選択的に阻害する化合物が存在することが分かりました。とは言っても,これを実用薬剤に繋げることは容易なことではありませんでした。しかし最近,長年の共同研究企業で新規化合物が発見され,犬に寄生するノミ・マダニの駆除薬ブラベクトⓇ錠*の実用化に至りました。続いて,安全性の高い農業用殺虫剤2剤が上市される見込みであり,作物保護にも大いに貢献することが期待されています。(* http://www.msd-animal-health.jp/products/companion-animals/ca_001.aspx) 島根大学には生物制御化学寄附講座が設置されましたので,基礎研究に立脚した産学共同研究により,今後も新しい安全な有害生物防除剤の創製に貢献できるものと期待されています。 本研究は,農作物の生育を妨害する有害生物の薬物標的分子に関する研究であり,得られた成果は新しい安全な農業薬剤の創製に応用され,安定した食料生産に貢献することが期待されます。Studies on Ion Channels as Targets for Pest Control Agents図 GABAによるGABAClを介した抑制性神経伝達のメカニズム有害生物防除剤の標的としてのイオンチャネルの研究生物資源科学部

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