お宝研究vol.11
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36吉岡 秀和(生物資源科学部・助教)Hidekazu Yoshioka (Assistant Professor, Faculty of Life and Environmental Science)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望 私たちの身近にある河川,湖沼,用・排水路には,水辺の環境や生態系,そして人間生活を支える様々な水生生物が住んでいます。いま,多くの水生生物については,人間による環境改変により個体数が著しく減少してきており,その対策が急務となっています。本研究では,私たちに馴染み深い回遊魚である“アユ(Plecoglossus altivelis)”を対象に,持続的な内水面漁業を実現する環境づくりのあり方を,現代数理科学の力を借りて模索しています。 A variety of aquatic species live in rivers, lakes, and canals around us, which are indispensable for water environment, ecology, and human lives. Currently, most of their populations are significantly decreasing due mainly to environmental modification by humans; this is an urgent issue to be addressed. In order to challenge the above-mentioned issue, this research focuses in particular on exploring sustainable and environmentally sound management and inland water fishery strategies targeting the famous migratory fish “Ayu (Plecoglossus altivelis)” with the help of modern mathematical science.【特色】 本研究は,現代数理科学の手法や知識を集約して,人間が水辺の環境や生態系と共存できる道筋を見出していく,という特色を有しています。様々な問題や現象を数学の視点から数式(方程式や不等式,あるいはもっと複雑な式)として表現することで,それらの本質をすっきりと見出すことができると考えています。また,島根県斐伊川という独自の研究対象地を設け,地域の方々や団体とともに,この河川の内水面漁業について考究しています。【研究成果】 アユは河川をどのように回遊するのかを知り,予測することは,持続的な内水面漁業を実現する環境づくりには不可欠です。本研究では,アユの回遊に関する新しい数理モデル(複雑な非線型偏微分方程式)をゼロから構築し,その性質を数学・生物学・生態学的な観点から詳細に解析し,アユを含む魚類の回遊に関する既存の実験・観測結果と本モデルの性質が整合的であることを示しました。とくに,“粘性解”と呼ばれる,微分方程式に対する広い意味での解の概念がこの解析で有効性を発揮することを確認しました。また,数理モデルに対する高効率・安定・精緻な独自の数値計算手法を開発し,その高い実用性を実際のアユ回遊の数値シミュレーションにより実証しました。 こうした数理モデルづくりと並行して,斐伊川漁業協同組合,斐伊川水系における魚道の設計などを行っている株式会社大隆設計,京都大学農学部水資源利用工学研究室ならびに九州大学マス・フォア・インダストリ研究所と協力し,斐伊川の河川流況や水質,魚類回遊に関する現地調査を進めています(写真)。こうした調査によって,アユに限らずどのような水生生物が魚道を利用しているのか,だんだんと明らかになってきています。【今後の展望】 本研究の成果は国内研究集会,国際会議や国内外の学術雑誌,斐伊川漁協の広報雑誌などを通して,国内外,そして地域に向けて積極的に発信していく予定です。本研究は魚類回遊の解析手法の開発という学術的な意義を有するとともに,地域環境や漁業経営の改善,地方自治体への助言などの実務にも貢献しうるものであると考えています。今後は,数理モデルの精緻化や現地調査の継続を予定しています。 内水面水産資源に対する管理指針を樹立するための,強固な理論的基盤となることが期待されます。Mathematical and numerical modelling on regional environment, ecology, and society斐伊川中流部での生き物調査風景(斐伊川漁業協同組合と株式会社大隆設計とともに。)地域を取り巻く自然・社会科学的な事象の数理・数値モデリングの推進生物資源科学部

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