お宝研究vol.11
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37堺 弘道(総合科学研究支援センター・助教)Hiromichi Sakai (Assistant Professor, Interdisciplinary Center for Science Research)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望 エーラス・ダンロス症候群(EDS)は皮膚・血管・関節等に脆弱を引き起こす遺伝性結合組織疾患の一つです。III型EDSは,細胞外マトリックスタンパクであるテネイシンX(TNX)のハプロ不全により発症することがわかっています。症状としては,関節可動亢進,反復性関節脱臼又は亜脱臼の他に,慢性的な疼痛を伴いますが,この慢性疼痛は患者にとって身体・精神的に大きな負担であり,しばしば,うつ病を併発します。従って,III型EDSにおける慢性疼痛発症機序を解明することが,慢性疼痛を軽減するような特異的な鎮痛薬の開発を行う上で重要です(図1)。 Ehlers-Danlos syndrome (EDS) is characterized by hereditary fragility of connective tissues and widespread manifestations in the skin, ligaments, joints, and blood vessels. It is known that the development of the type III EDS is caused by haplo-insufficiency of Tenascin-X (TNX), one of extracellular matrix proteins. Patients with the type III EDS have joint hypermobility and repetitive joint dislocations or subluxations causing moderate to severe chronic pain which is a heavy burden physically and mentally for patients. This pain frequently leads to depression for most of the patients. In order to develop a novel analgesic drug to palliate the pain, it is important to elucidate the mechanism of chronic pain in patients with type III EDS (Fig.1).  III型EDSにおける慢性疼痛発症機序の解明のためには,III型EDSのモデル動物を作製することが重要です。我々のグループでは以前TNXを欠損させた遺伝子欠損マウスを作製したところ,本マウスが痛覚過敏を示すことから,TNX欠損マウスがIII型EDSの痛みメカニズム解明のために有効なツールとなることがわかりました。そこで,本研究では,このTNX欠損マウスを用いることで,TNX欠損が末梢神経にどのような影響をもたらすかを明らかにすることにしました(図1)。 得られた研究成果は次の通りです。(i)TNX欠損マウスから坐骨神経を取り出し,坐骨神経の細胞骨格タンパクの変化を調べたところ,アクチン量がTNX欠損マウスにおいて顕著に減少することがわかりました。(ii)次に,坐骨神経のアクチンの分布を調べたところ,アクチンは血管に高発現しており,構造的解析から,TNX欠損マウスの坐骨神経内の血管の数が減少していることがわかりました。さらに,(iii)坐骨神経内のTNXはシュワン細胞と線維芽細胞から産生されていることがわかりました。 今後の展望として,TNX欠損マウスにおける血管形成異常がどのように痛み発生に関わるのかを調べ,さらには,関節や筋肉などにおいてもTNX欠損によりどのような異常が引き起こされるかを調べることで,III型EDS患者にみられる慢性疼痛の発症メカニズムを解明し,TNXを分子標的とした慢性疼痛緩和のための新たな治療薬の開発を目指していきます。 EDSの慢性疼痛は,患者のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を著しく低下させる大きな要因です。本研究を遂行することで,TNXに起因する慢性疼痛治療薬の開発を行い,EDS患者のQOLの向上へと繋げます。The elucidation of mechanism of chronic pain in patients with type III Ehlers-Danlos syndrome caused by tenascin-X haplo-insufficiency図1 本研究の目的テネイシンXハプロ不全III型エーラス・ダンロス症候群における慢性疼痛発症機序の解明総合科学研究支援センター

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