お宝研究Vol12
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重点研究部門萌芽研究部門特別研究部門プロジェクトセンター研究表彰若手研究者表彰女性研究者表彰31及川  穣(学術研究院人文社会科学系法文学部担当・准教授)Minoru Oyokawa (Associate Professor, Academic Assembly Institute of Humanities and Social Science)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望  Behavior model of The First Homo Sapiens in Southwestern region of the Japan Sea: Origin of Exploitation on the Oki Islands Obsidian Sources, Shimane Prefecture 本研究では,初めて日本列島に到達し,定着した私たちホモ・サピエンス(解剖学的現代人)の行動の特質を描きだしました。具体的には,隠岐諸島から中国山地地域を対象として,更新世(後期旧石器時代前半期)の人類の資源開発行動に関するモデルを構築しました。 Main research objective is to develop a model of the prehistoric exploitation of obsidian sources that would correlate with the consumption patterns observed at sites distant from the sources. The results shed new light on obsidian distribution and procurement patterns at the Oki Islands obsidian sources. The results of this research presented a behavioral model of “The First Homo Sapiens” adapted across the sea in the southwestern region of the Japan Sea. アフリカで誕生したとされる私たちホモ・サピエンスが,初めて,日本列島に到達し定着したのは,今から約38000年前頃とされています。島根県奥出雲町原田遺跡をはじめ中国山地の多くの遺跡では,隠岐産の黒曜石が石器(主に小形のナイフや狩猟道具)の素材に利用されています。これらの遺跡は,高度な海洋適応や海上渡航技術を身につけたホモ・サピエンスの行動や生活様式,彼らの世界観や空間識などを評価する上で重要と考えます。つまり,本研究で提示するモデルは,世界各地のあらゆる環境への適応能力と探索の好奇心を併せ持ち,新天地を切り開いていったホモ・サピエンスの行動の特質として評価できると考えられ,地図も道路も無い時代,無人の荒野であった日本列島に初めて私たち現代人が定着していく様子を示すことができると考えます。 本研究の成果によって,彼らの資源開発行動の一端を復元することができました。具体的な分析では,遺跡から出土する石器群の製作技術に着目して,どこに石器の原料となる石材を搬入し,どの場所で原石の打ち割りに始まる石器製作工程が開始されたのかを遺跡ごとに詳細に調べました。 結論として,海上渡航の大きな目印で,頂上から周辺を見渡せる伯耆大山を中心とする地域一帯が,この地方へ最初に定着した人たちの居住や生業の拠点となり,黒曜石を獲得し陸揚げするためにも,空間識を形成するためにも重要なターミナルであったと評価しました。旧石器時代の人々がこの地を拠点に,中国山地を東西に往還移動して生活している状況を捉えました。先行研究においても,生活に必要な様々な資源を移動生活の経路上に埋め込んでおく,いわゆる「埋め込み戦略」によってバンド社会を成り立たせていたことが仮説提示されています。隠岐産黒曜石の獲得は,この埋め込み戦略では説明できない利用状況を示していることから,別動的な遠征者によって海上渡航が成し遂げられ,日常生活とは別の特別な労働として従事し隠岐へ渡っていた集団の存在が提示できました。 本研究の成果は,地域社会に存在する遺跡(文化財・文化遺産)の保存や保護,活用の理念向上に貢献します。遺跡の重要性や歴史的な意義を発信し伝えることで,そこに住んでいる方々が,地域の魅力に気づいたり,歴史や過去を振り返ることで自分のことを再発見し,心を豊かにすること,人間性を養うことなどに繋がると考えられます。より良い人間社会の持続や常識の普遍化,そして新しい物事の観方を養うことに貢献できると信じています。後期旧石器時代前半期の遺跡における石器群の利用石材(海水面の設定:-80m)。※紫色の円:大山を中心に半径約100kmの範囲。円グラフの構成:黒が黒曜石。大山周辺の遺跡に利用率が高い。ほかに安山岩(灰色),高田流紋岩類(青色),水晶・石英(黄色),玉髄(橙色),頁岩(水色)などを利用。隠岐諸島島前(西ノ島町)美田小向遺跡出土の黒曜石製石器群:小形ナイフ,剥片・残核類(約34000~3600年前)。写真提供:島根県立古代出雲歴史博物館隠岐諸島黒曜石の開発・利用からみた環日本海南西地域における人類文化の起源と展開

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