お宝研究Vol12
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32金廣 優一(学術研究院医学・看護学系医学部担当・助教)Yuichi Kanehiro (Assistant Professor, Academic Assembly Institute of Medicine and Nursing)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望Studies on APOBEC-induced mitochondrial dysfunction in EB virus-infected gastric cancer Epstein-Barr ウイルス(EBV)は,成人のほとんどが感染している普遍的なヒトヘルペスウイルスであり,また腫瘍を引き起こすウイルスとしても知られています。EBV関連胃がんは,胃がん全体の約10%で認められますが,その発がん機構は完全には明らかになっていません。APOBECは,ウイルス感染防御因子として働く蛋白質であり,一方,その機能異常が一部のがん細胞で認められています。そこで私たちは,EBV感染時のAPOBECの機能変化について検討しました。興味深いことに,EBV感染時の細胞内のミトコンドリアDNAに,APOBEC3ファミリーの1つであるAPOBEC3Cによって変異が導入されていました。 従ってEBV感染は,APOBEC3Cによるミトコンドリア機能障害を介して発がんに関わる可能性が考えられます。 Epstein-Barr virus (EBV) is a ubiquitous human herpes virus that most adults are infected, also known as tumor virus. EBV-associated gastric carcinoma comprises almost 10% of all gastric carcinomas. However, the molecular mechanism on its tumorigenesis has not been fully elucidated. APOBEC is a protein working as an antiviral factor and its functional abnormalities are often found in several cancer cells. Therefore, we investigated the functional change of APOBEC during EBV infection. Interestingly, EBV infection revealed that mitochondrial DNA mutation was induced dependent on APOBEC3C. In summary, EBV infection may cause tumorigenesis through mitochondrial dysfunction by APOBEC3C. 日本で,胃がんにより亡くなる人の数は,全がん中で男女共に上位に位置しています。また全胃がんの約10%にはEBVが感染しており,胃がん発生との関連が研究されていますが,未だ完全には明らかになっていません。最近の研究で,EBV関連胃がんの遺伝子にシトシンをチミンに変換する特徴的な変異(C-to-T変異)が高頻度に導入されていることが明らかになりました。そこで私たちは,ウイルス遺伝子にC-to-T変異を導入することでウイルスの増殖を阻害する蛋白質APOBECに着目し,EBV感染による胃がん発生との関わりについて検討しました。 EBVを胃上皮細胞株に感染させると,APOBEC3ファミリー(A, B, C, DE, F, G, Hの7種類)の発現が増加し,興味深いことに,細胞内のミトコンドリアDNAにC-to-T変異が導入されていました。次に,C-to-T変異を引き起こすAPOBEC3を同定するために,APOBEC3ファミリーを細胞にそれぞれ過剰発現させた結果,APOBEC3CによりミトコンドリアDNAに多くの変異が導入されていました。さらに,ゲノム編集法によりAPOBEC3Cを欠損させた細胞株にEBVを感染させると,変異は大幅に減少しました。従ってEBV感染胃上皮細胞では,APOBEC3C依存的なミトコンドリアDNA変異が導入されていることが明らかとなりました。一部のがん細胞では,APOBECの機能異常により細胞自身の遺伝子に変異が導入されることが報告されています。またミトコンドリアは,細胞の活動に必要なエネルギーの合成や,細胞死(アポトーシス)の制御を行う細胞内小器官ですが,多くのがん細胞においてミトコンドリアDNAに高頻度に変異が認められています。従ってEBV感染により発現誘導されたAPOBEC3Cは,ミトコンドリア機能障害を介して発がんに関わる可能性が考えられます。将来的に,APOBEC3Cを対象とした分子標的薬を開発することで,EBV感染胃上皮細胞の腫瘍抑制効果が期待できます。 本研究により,EBV関連胃がんの治療を目指した分子標的薬開発への応用が期待できます。EBV感染胃上皮細胞EBウイルス感染胃上皮細胞の腫瘍化における APOBEC の発現に伴うミトコンドリア機能障害に関する研究

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