お宝研究Vol12
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34岩本 真裕子(学術研究院理工学系総合理工学部担当・講師)Mayuko Iwamoto (Associate Professor, Academic Assembly Institute of Science and Engineering)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望 生物の動きのメカニズムを理解することは,理学的興味からも,工学的利用という観点においても大変重要な課題です。本研究では,カタツムリやナメクジなどの陸生生物やサザエやアワビなどの水生生物を含む腹足類(軟体動物腹足綱)の動きに着目しています。多くの腹足類は,「腹足」と呼ばれる軟体部の筋収縮波を使って,凸凹面や垂直面など不安定な場を這いながら安定して移動すること(這行運動)ができるため,この動きのメカニズムが解明できれば,災害時の探索ロボットなどの工学的な応用が期待されます。 Understanding the moving mechanism of living organisms is a very important issue both from scientific interests and from engineering point of view. This study focused on the movement of gastropods (class gastropoda in phylum Mollusca) which include both terrestrial (e.g. snails and slugs) and aquatic (e.g. turban shell and abalones) organisms. Most of gastropods can move steadily on unstable surfaces such as concave-convex and vertical situations, using muscle contraction waves of soft body part called “ventral foot”. Therefore engineering applications for search robots in a disaster are expected if we can be clear the mechanism of this movement. 腹足類がガラス面上で這行(しゃこう)運動する際,図のように筋肉の収縮部分がパターン(模様)として観察されます。そのパターンは種によって異なり,また,重心の移動とともにパターンも波のように動きます。例えばカタツムリは(a)のように左右対称なパターンが重心移動と同方向に動きます。その波の数は,個体の大きさによりますが,6~23程度と言われています。腹足類の這行運動は,この筋収縮波によって実現されていることが観察から指摘されてきましたが,実際に移動を実現するためには摩擦の制御が必要です。摩擦制御の最も簡単なメカニズムは,接地面から浮かせる部分を作り出すことですが,そのメカニズムを実現するためには,動く波のどの部分をいつ浮かせるのかという中枢からの制御機構が必要になると考えられます。 本研究では,摩擦の制御方法として腹足を覆う粘液に着目し,粘液の粘弾性によって自動的に摩擦が制御され得ることを数理モデルとその数値解析を用いて示しました。数理モデルでは,筋肉を自己駆動バネで記述し,粘液の粘弾性をヒステリシスループを用いて記述しました。もし這行運動において粘液が利用されているならば,腹足類は中枢からの摩擦制御を必要とせず,粘液を分泌し筋収縮の波を流すことで重心移動が実現されることがわかります。一方,腹足類には水生の生物も含まれるため,粘液の特性が水中でどれほどの効果が発揮できるかという疑問や,そもそも筋収縮パターンがどのように形成されているかなどの疑問が残ったままです。また,これまでガラス面上でのみ観察されてきたため,凹凸面での腹足の様子も明らかになっていません。今後は,凹凸面での腹足の様子の実験観察をもとに数理モデルを拡張し,腹足類の多様なパターンと動きのメカニズムを系統的に理解していきたいと考えています。 這行運動は,様々な運動様式の中でもより基礎的なものであると考えられるため,這行運動メカニズムが解明されれば,歩行などのメカニズムについても理解が深まることが期待されます。運動メカニズムの解明は,ソフトロボティクスの分野で必要とされており,将来的には,災害時に自由に動き回れるロボットの製作につながると考えています。A Mechanism for Friction Control in Crawling Locomotion of Gastropods ガラス面でのカタツムリの這行運動腹足類の筋収縮パターン腹足類の這行運動における摩擦制御メカニズムの解明

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