お宝研究Vol12
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重点研究部門萌芽研究部門特別研究部門プロジェクトセンター研究表彰若手研究者表彰女性研究者表彰■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 39■■■■■■■■■■■■丸橋 静香(学術研究院教育学系大学院教育学研究科担当・教授)Shizuka Maruhashi (Professor, Academic Assembly Institute of Education)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望 本研究は,現代ドイツの哲学者K. -O. アーペルの討議倫理学の検討をとおして,熟議民主主義の手立てを教育学的に探究したものです。価値観が多様化する今日,合意の調達を求める討議倫理学は重要な構想です。そこで,一方で討議能力の育成が教育学の課題となります。しかし討議倫理学は十分な討議能力を前提として要求するため,子ども・障がいをもつ人々・未来の人類等,言わばロゴスの〈他者〉をいかに考慮するのかがもう一方で理論的な課題となります。本研究はこの二つの方向から研究を進めています。 Today discourse ethics is a very important theory for democracy. This theory presupposes sufficiently developed capacities for discursive agency. Therefore, on the one hand, it is a pedagogical task how to develop them. However this theory excludes the interest that children or future citizens have in the development of their own competence for deliberation. Hence, on the other hand, it should be considered how we can take account of such interest. From these two perspectives I consider Apel' s Diskursethik (discourse ethics) and conclude that it requires two pedagogical strategies for institutionalization of deliberative democracy. (特色・意義) 本研究は,教育学における討議倫理学研究で専ら検討されてきたハーバーマスではなく,アーペルに焦点を当てています。そのことによって先行研究の袋小路を突破し,熟議民主主義のための教育学的な手立て(図1)を新たに提案することができました。なお本研究は平成27年度の本学サバティカル研修の成果であり,平成29年2月に広島大学に受理された博士論文です。具体的には次の点に特長があります。(1)アーペル討議倫理学を,ヨナス,ハーバーマスとの関係性から綿密に特徴づけたこと。(2)教育学における討議倫理学研究に他者論的転回という新たな方向性を示し,子どもという非対称な他者の他者性の承認こそが,対称的な討議関係を可能にすることを論証し,〈対称関係と非対称関係の交錯〉という教育理解,そして複数性の保持という「教育(教師)の倫理」を提案したこと。そのことによって「大人-子ども間の対称的討議の必要性」と「大人-子どもの形成度の格差への配慮」という近代教育学的な二律背反問題に打開の可能性を示し得たこと。(3)学校教育の実践的な場面での話し合い活動に関する方法論や道徳教育の展開方法を新たなかたちで論じることができたこと。 なお,こうした成果は,博士論文の審査において「今日の教育哲学,教育倫理学研究の最先端に位置する」という高い評価を得ることができました。 (展望) 本研究が明らかにした教育の構造は,教育実践に対する有用性を超えて,「教育という倫理」としても現代社会全般において有意味に位置づけることができるのではないかと考えています。つまり,(例えば)子どもを平等な(対称的な関係にある)存在と見つつも,非対称的に配慮すべき存在としても見なければならないという両極間の緊張関係のなかで捉えられる教育(学)の構造は,例えば今日のグローバル化社会における葛藤状況(例えば「自由/平等」「包摂/排除」の問題群)に解決のための一定の方向を示しうるのではないかと構想しています。今後は,この見立てが妥当であるのかを理論的に詰めたいと思っています。 本研究は,今日,学習指導要領等で求められる「対話的学び」や「考え,議論する道徳」の基礎理論という性格を有しています。また教員養成や教師教育の基礎として,教職倫理や育成指標の策定に寄与できると考えられます。Pedagogical consideration of Apel's discourse ethics図1 熟議民主主義のための教育学的方略K ・‐O ・アーペルの討議倫理学に関する教育学的研究

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