お宝研究Vol12
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重点研究部門萌芽研究部門特別研究部門プロジェクトセンター研究表彰若手研究者表彰女性研究者表彰41児玉 有紀(学術研究院農生命科学系生物資源科学部担当・准教授)Yuuki Kodama (Associate Professor, Academic Assembly Institute of Agricultural and Life Sciences)研究者紹介概   要特   色研究成果今後の展望社会実装への展望Elucidation of the mechanism that establishes endosymbiosis between the ciliate Paramecium bursaria and Chlorella sp. ミトコンドリアや葉緑体を生み出した細胞内共生は現在でも多くの生物同士で見られ,新たな機能と構造の獲得による真核細胞の進化の原動力となっています。しかし,その成立機構は明らかにされていません。私は繊毛虫のミドリゾウリムシParamecium bursariaと緑藻のクロレラChlorella sp.との共生系を使って,真核細胞同士の細胞内共生が成立する仕組みや,維持される仕組みの解明を目指しています。 As shown by the evolutionary acquisition of mitochondria and chloroplasts, endosymbiosis is a primary force in eukaryotic cell evolution. However, the mechanisms that control the establishment of endosymbiosis between different eukaryotic cells are not well known. Using the ciliate Paramecium bursaria and Chlorella sp. endosymbiosis, I have been researching for the elucidation of the mechanism that establishes and maintains endosymbiosis. 【特色】 細胞内共生の成立機構や維持機構がほとんど解明されていない最も大きな原因は,大部分の細胞内共生生物においては,互いの存在が生存に不可欠なまでに宿主と共生体の一体化が進み,細胞内共生の誘導実験が困難なためにあります。この点を解決できるのが,私の研究材料である繊毛虫のミドリゾウリムシと,その共生クロレラです。ミドリゾウリムシは細胞内に約700個の緑藻クロレラを保持しており(図1A),クロレラは1細胞ずつ宿主の食胞膜(図2B)由来のperialgal vacuole膜(図2A)と呼ばれる共生胞に包まれています。ミドリゾウリムシとクロレラは相利共生の関係にありますが,まだ互いの存在が生存に必須なまでに共生関係は進んでおらず,それぞれ単独で生存することが可能です。これは,両者の関係が細胞内共生成立の初期段階にあることを示しています。細胞内共生によって,光合成能力をもたない従属栄養生物であったミドリゾウリムシは,独立栄養生物として生存することが可能になります。クロレラはゾウリムシだけでなく,多くの原生生物やヒドラやカイメンにも共生することが知られており,クロレラと動物細胞との細胞内共生は普遍的な現象です。【研究成果】 クロレラ除去細胞に共生クロレラをパルス的に与えチェイスする最適条件を確立しました。この方法を用いて,クロレラが細胞内共生を成立させる過程の全容と,再共生成立に必須な4つのプロセスの存在を明らかにすることができました。2014年には,クロレラと共生前後のミドリゾウリムシのトランスクリプトーム解析を行い,共生前後で発現が変化する6,698の遺伝子を初めて明らかにしました(Kodama et al., BMC Genomics, 2014)。【今後の展望】 現在は,クロレラの共生に伴う遺伝子発現の変化の解明を目指しています。今後は再共生成立に必須な各プロセスに関与する重要な分子を明らかにすることで,細胞内共生が成立する仕組みや維持される仕組みを解明したいと考えています。 本研究の成果は,細胞内共生による細胞進化の機構の解明だけでなく,共生関係の維持を通した生態系の保全等の問題解決のための技術開発にも貢献できると期待しています。【図1】クロレラ共生 (A)・非共生(B)細胞,Aから単離したクロレラとBを混合してから3時間後の細胞(C)。矢尻は再共生に成功したクロレラ,Ma: 大核,Cy: 細胞口,DV: 食胞【図2】PV膜(A)とクロレラを包む食胞膜(B)の透過型電子顕微鏡写真(Kodama and Fujishima, 2011を改変)繊毛虫ミドリゾウリムシと緑藻クロレラとの細胞内共生成立機構の解明

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