島根大学お宝研究Vol.13
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ラット視床下部のBrdU/NeuN免疫二重染色画像。暑熱馴化したラットでは視床下部におけるBrdU/NeuN陽性細胞(矢印)が対象に比較して顕著に増加した。緑;視床下部のNeuN陽性細胞(神経細胞)。赤;視床下部のBrdU陽性細胞(視床下部で新生した細胞)をあらわす。Aging deteriorates acquired heat tolerance and hypothalamic neurogenesis in heat-acclimated rats.AsJapanesepopulationages,thenumberofpatientswithheatstrokeareincreasing.Foranimals,repeatedexposuretomoderateheathasbeenwellknowntoresultindevelopmentofheatacclimationthatareknownasoneofthemeasuresagainstheatstroke.However,thecentralmechanismofheatacclimationhasnotbeenfullyelucidated.Wehavedemonstratedthatheatexposuregeneratesheatresponsiveneuronsinthehypothalamus,suggestingapivotalroleinautonomicthermoregulationinlong-termheat-acclimatedrats.36研究者紹介松崎 健太郎KentaroMatsuzaki(学術研究院医学・看護学系・医学部担当・講師)概 要近年,夏季における熱中症が深刻な社会問題になっています。熱中症を予防する方法のひとつとして暑熱馴化が注目されています。多くの動物では暑熱馴化の形成により体温調節機能が亢進し,熱中症にかかりにくくなることが知られています。しかし,暑熱馴化の形成を制御する脳内メカニズムは不明のままでした。私たちは実験動物を用いて暑熱馴化形成の脳内メカニズムを解析し,熱中症予防に応用することを目標に研究しています。また,老化や中枢神経疾患により減弱する中枢神経機能の賦活化による体温調節機能の亢進作用の可能性について検討しています。特色・研究成果・今後の展望これまでに私たちは,若齢ラットにおける暑熱馴化の形成過程において,体温調節中枢が存在する視床下部で神経前駆細胞の増殖と分化が促進され,これが暑熱馴化の形成に関与することを報告しました。また,老齢ラットでは視床下部における神経前駆細胞の増殖機能が低下しており,これに伴い暑熱馴化の形成機能が障害されることを見出しました。さらに,アルツハイマー病態モデルラットでは視床下部における神経前駆細胞の増殖機能や暑熱馴化形成機能,ならびに行動性体温調節機能などが減弱していることを明らかにしました。高齢者や認知症患者における熱中症罹患率の増加には,視床下部における神経可塑性の劣化による暑熱馴化形成機能の低下が関与する可能性が示唆されます。今後,運動トレーニング等による脳機能の賦活化と暑熱馴化形成の関連を明らかにしたいと考えています。社会的実装への展望高齢者や認知症患者における体温調節機能の解明とその熱中症予防への応用が期待されます。加齢や認知症により暑熱馴化形成機能が減弱するメカニズムの解明と熱中症予防への応用

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