島根大学お宝研究vol.14
21/50

◉プロジェクトリーダー …齋藤 文紀 Yoshiki Saito(学術研究院環境システム科学系・エスチュアリー研究センター担当・教授)◉研究代表者 …………………清家  泰 Yasushi Seike(学術研究院環境システム科学系・エスチュアリー研究センター担当・特任教授)増木 新吾 Shingo Masuki(エスチュアリー研究センター・客員研究員) 林  昌平 Shohei Hayashi(学術研究院環境システム科学系・生物資源科学部担当・助教) 大谷 修司 Shuji Ohtani(学術研究院環境システム科学系・教育学部担当・教授) 管原 庄吾 Shogo Sugahara(学術研究院環境システム科学系・総合理工学部担当・講師) 永田 善明 Yoshiaki Nagata(島根県産業技術センター・環境技術科長) 神門 利之 Toshiyuki Godo(島根県保健環境科学研究所・環境科学部長) 矢島  啓 Hiroshi Yajima(学術研究院環境システム科学系・エスチュアリー研究センター担当・教授)At Sanbe-Reservoir (source for public water supply in Ohda City) in Shimane Prefecture, concentrations of musty odors (geosmin and 2-MIB) (> 1,000 ng/L) far exceeding the standard values for public water supply (<10 ng/L) have been observed and causing problems. In this research, we conducted a research study to understand the actual situation, and obtained the following useful knowledge that contributes to control against musty odor in the future. (1) The generation of musty odor at Sanbe-Reservoir was derived from several cyanobacteria of phytoplankton in the upper layer and from various actinomycetes in the bottom layer. (2) We have found that when a large amount of inflow exceeding 8 m3/s occurs, the generation of musty odor in the upper layer is suppressed. 一方,放線菌については,三瓶ダムの底泥から単離した173株のうち,126株がジェオスミン生産遺伝子を,91株が2-MIB生産遺伝子をそれぞれ保有していることを見出し,大部分の放線菌にジェオスミンと2-MIBの生成能があることを明らかにしました。また,降雨に伴い,河川水(低pH)のダム湖への流入量が増大する際には,植物プランクトンの生産層のpHの低下をきたし,カビ臭の発生が抑制されることを見出しました。これは,ラン藻のみが優位に増殖できる高pH環境(> pH 8.5)から珪藻や緑藻も十分に増殖可能な中性付近までpHが低下したことで,三者間の競争関係がリセットされ,ラン藻の増殖が抑制されたことを示しています。本結果は,今後,抜本的なカビ臭対策を構築する上で極めて重要な視点を提示しており,ダム湖における植物プランクトンの生産層のpH制御に着目した気泡循環装置の開発に繋がるものと云えます。となる技術開発への発展が期待されます。17ジェオスミンを生産するラン藻種(左) Dolichospermum crassum。SDJ10培養株の形態。浮遊性。 細胞の幅は8.5~11μm。(右) Dolichospermum planctonicum。SDJ5培養株の形態。 浮遊性。細胞の幅は16.8~17.5μm。 2-MIBを生産するラン藻種(左)Pseudanabaena sp.1。SDS7培養株の形態。底生性。細胞の幅は1.5~1.7μm。(中央)Pseudanabaena sp.2。SDS4B培養株の形態。浮遊性。細胞の幅は1.2~1.6μm。(右)Aphanizomenon cf. flos-aquae。SDS12培養株の形態。浮遊性。幅は4.6~5.0μm。三瓶ダムにおけるカビ臭(ジェオスミン&2-MIB)発生に関する研究Occurrence of geosmin and 2-MIB in Sanbe-Reservoir研究者紹介概 要島根県の三瓶ダムでは,上水道基準値(< 10ng/L)をはるかに超えるカビ臭(ジェオスミン及び2-MIB)の濃度(> 1,000ng/L)が観測されることもあり,その浄水処理に支障をきたす事態が生じています。本研究では,その実態把握を目的に調査研究を行い,今後のカビ臭対策に資する以下の有用な知見を得ました。①三瓶ダムのカビ臭発生は,上層では植物プランクトンのラン藻数種に由来し,底層では多種の放線菌に由来すること,②三瓶ダムでは,8m3/sを超える大量の流入があった時には,上層におけるカビ臭の発生が抑制されること,を見出しました。特色・研究成果・今後の展望カビ臭を生成する生物種のうち,ラン藻については三瓶ダム湖水から単離したラン藻を単藻培養し,さらに遺伝子解析を行いました。その結果,Dolichospermum crassum 及び Dolichospermum planctonicumが,6~7月にジェオスミンを生成すること,また,Pseudanabaena sp.1 , Pseudanabaena sp.2 , 及び Aphanizomenon cf. flos-aquae が,8~11月に2-MIBを生成することを見出しました(写真参照)。社会的実装への展望カビ臭問題は多くのダム湖が抱えている課題であり,その解決策の構築が待たれています。本研究の知見を活かし,カビ臭問題の抜本的対策斐伊川水系宍道湖・中海をモデルフィールドとする閉鎖性水域学際研究プロジェクトInterdisciplinary research project on estuary, by taking advantage of Lakes Shinji and Nakaumi in the Hii River water system as a model-field

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る