島根大学お宝研究vol.14
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A Raman Spectroscopic Study for Biomedical ApplicationsRaman spectroscopy is a scientific technique to examine molecular structures or environments by checking if the wavelength of irradiated electromagnetic field on molecules changes or not. This phenomenon was found out by an Indian physicist, Dr. Raman, at 1928 and awarded Nobel prize only after two years. Because very little damage is given to living things, we can know the molecular behavior in the living cells or tissues as they are with this technique coupled with a microscope. This spectroscopy is also getting attention as a new diagnostic technique which does not need biopsy.図1.通常の分裂酵母細胞の表面の膜(上2段)には,α,β-グルカンがあるが,飢餓状態で形成される胞子の膜(下2段)には,α-グルカンしか存在しない。Scientific Reports, 6,27789, 2016より30図1  通常の分裂酵母細胞の表面の膜(上2段)には,α,β-グルカンがあるが,飢餓状態で形成される胞子の膜(下2段)には,α-グルカンしか存在しない。   Scientific Reports, 6,27789, 2016より研究者紹介山本 達之 Tatsuyuki Yamamoto(学術研究院農生命科学系・生物資源科学部担当・教授)概 要ラマン分光法は,分子に当たった電磁波(光)が,元の波長と変化するかどうかを調べて,分子構造や分子環境を知ることができる研究手法です。インドの物理学者のラマン博士によって1928年に発見され,そのわずか2年後にはノーベル賞を与えられました。この手法は,測定に伴う生物への損傷がほとんどないので,顕微鏡と組み合わせることで,生きた細胞や組織の中の分子の振る舞いをあるがままに調べることができます。また,生体への損傷が無いという特長を用いて,生検(切り取り検査)を必要としない,医療診断の新しい手法として注目を集めています。特色・研究成果・今後の展望分子を形作っている原子は,常に振動しています。その振動の様子を調べて,分子構造や分子環境を知るための手法がラマン分光法です。この現象を1928年に見出したインド人物理学者のラマン博士に対して,わずか2年後にノーベル物理学賞が与えられたことが,この発見が当時世界に与えた衝撃の大きさを物語っています。ラマン分光法の最大の利点は,前処理無しに,あるがままに試料に対して適用できることです。この手法と顕微鏡を組みわせると,生きた細胞や組織の中の分子の振る舞いを,あるがままに調べることができるのです。図1は,通常の生きた分裂酵母細胞の表面の膜と,それらが飢餓状態で形成する胞子の表面の膜をラマン分光法によって比較して作成したイメージです。通常の分裂酵母の膜には,α-グルカンとβ-グルカンという構造が少しだけ異なる糖鎖が含まれているのですが,胞子の膜には,α-グルカンしか含まれていないことが初めて詳しく分かりました。医療方面からは,生検(切り取り検査)が必要な病気の診断を,ラマン分光法を用いて,切り取りを必要とせず,すぐに診断できるようになるのではないかと期待されています。社会的実装への展望ラマン分光法を用いることで,生きた細胞や組織の中の異なる分子がどこにどれだけ存在しているのかを映像化することができるようになりました。また,この手法を用いた新しい医療診断技術の開発も進んでいます。この手法の更なる発展を期待しましょう。ラマン分光法の医・生物学応用に関する研究

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