島根大学お宝研究vol.14
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◉プロジェクトリーダー …京   哲 Satoru Kyou(学術研究院医学・看護学系・医学部担当・教授)4血液や腹水に含まれる微量の癌細胞の可視化とそのゲノム解析の試みChallenge to visualize and collect cancer cells in blood and ascites samples useful for genome medicine研究者紹介概 要がんの診断のためには通常がん組織を採取しますが,がんがお腹の中にある場合などは採取が難しく,代わりに血液や腹水が有用です。血液や腹水には原発巣から転移,浸潤してきたがん細胞が含まれます。これらは比較的簡単に採取できますので,ここからがん細胞を回収し,そのゲノム情報を解析すれば,原発巣のがんの種類や性質がわかり,早期発見や治療にも有用です。しかし,がん細胞は目に見えないので,そのままでは回収は困難でした。ウイルスは細胞に感染すると爆発的に増えます。その性質を利用して,私達は正常細胞には感染せず,がん細胞にのみに感染して増えるウイルスを開発してきました。このウイルスを改変し,感染した細胞が蛍光を発するように工夫しました。採取した血液や腹水にこのウイルスを感染させると,ウイルスが感染したがん細胞が蛍光を発するので,これを目印にがん細胞を回収して,そのゲノム情報を解析し,診断や治療に役立てることを目指しています。The blood and ascites samples in cancer patients are likely to contain small amounts of cancer cells, of which collection and analysis of genome infromation may be useful for early diagnosis and characterization of cancers of the primary site. However, it is difficult to recognize and distinguish cancer cells in vivo. We have previously established specialized virus, that can infect preferentially to cancer cells, not normal cells, replicating and producing green fluorescent protein, which can be visualized with fluorescent scope and be sorted with flow cytometry. We are currently trying to infect this virus to blood and ascites samples to visualize and purely collect cancer cells available for genomic analyses.特色・研究成果・今後の展望がん細胞のみに感染して増殖するウイルスを用いるのが,この研究の大きな特色です。このウイルスは国際特許を取得していますが,さらに改変を加え,蛍光を発する遺伝子を組み込んであります。血液中や腹水内の微量のがん細胞にも感染して,細胞内で増殖し,蛍光を発するので,蛍光顕微鏡下にがん細胞の同定とその回収が可能となるのです。図は蛍光顕微鏡にて蛍光を発するがん細胞を示しています。血液中にごくわずかに含まれるがん細胞もこの様に光らせて同定することができるのです。わずかながん細胞をこの方法で同定して回収し,ゲノムを解析することで,がんの原発巣の診断や殿特性,治療に対する有益な情報が得られるのです。社会的実装への展望我々が開発してきた「がん細胞に感染して蛍光を発するウイルス」を血液や腹水に感染させ,そこに含まれる微量のがん細胞を蛍光顕微鏡で同定,回収してゲノム解析を行うことで,がんの早期診断に繋がり,またがんの特性を知ることで,有効な治療に結びつけることができる可能性があります。がんゲノム医療に即応したリキッドバイオプシー技術の確立Establishment of a novel liquid biopsy system for cancer genomic medicine

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