第111回島根大学サイエンスカフェを開催しました

公開日 2023年07月13日

第111回島根大学サイエンスカフェ
「祖先からの『血』を継いでいるのは誰なのか?~東アジアの歴史から考える~」
 日時:令和5年7月5日(水)15時~16時10分
 講師:島根大学 法文学部社会文化学科 教授 佐々木 愛 

 今年度最初の第111回島根大学サイエンスカフェは、東洋史、とくに中国思想史が専門の佐々木 愛教授(法文学部)を講師に迎え、「祖先からの『血』を継いでいるのは誰なのか?~東アジアの歴史から考える~」をテーマにオンラインで開催しました。

 「祖先からの血は父からむすこだけに継承される」とする父系制は、ヒトが父母双方の血を受け継いで生まれてくる以上、生物学的に不自然な観念です。なぜこのような観念が世界には広がっているのでしょうか。
 佐々木教授は、歴史的にみると中国、インド、イスラム地域では父系制、その周辺の日本など東アジアや東南アジア、ヨーロッパでは父系母系双方の関係を重視する双系制で、父系制の地域がそれぞれ周辺の双系制の地域に影響を与えていったと説明しました。日本も、中国から父系制が伝来し受容されつつも、もともと双系制だった影響が強く残っていましたが、明治期に西洋から「近代家族」(男が外、女性が家)が伝来、さらに明治民法「家制度」を作り、西洋を模した夫婦同姓制度を導入するなど、中国由来の父系観念の上に西洋の「近代家族」が接合され、父系制概念が強化されたと説明しました。
 さらに父系制大国である中国も、その父系制観念は歴史的に強化されたものだと説明されました。中国の父系制を支える観念とされてきた父子同気(父からむすこだけに気(≒血)が継承される)という考え方は、実は歴史上ほとんどなかったとされました。宋代の朱子学では、気と祖先祭祀を関係させる発想が初めて誕生しましたが、父子同気であるとともに母子も同気でした。中国での墓の現地調査からも、宋代朱子学における父系制観念は厳格なものではないことがわかりました。一方、明清時期以降にみられる父系制は非常に厳しく、未婚のむすめは亡くなっても実家の墓地に葬ってもらえないとか、婚約後男性側が亡くなっても女性はその家に嫁ぎ舅姑に仕える行為が賞賛されたなどが知られていましたが、これらは明清ないし近代以降のことだと説明しました。国はじめ世界の 諸地域で父系制が強化された社会的背景として、父系制の実践には自身の社会階層を上昇させる役割があったとされました。
 参加者からは、「中国では養子をとらないのか。とる場合は、どのように説明がされるのか。」という質問のほか、「SDGsで女性のジェンダー平等が言われる現代とのコントラストがすごい。」との感想もありました。
 今回は49名の参加がありました。参加者の皆様、ご参加いただきありがとうございました。
 次回は「老朽化進むインフラの健全性を支える超音波技術」(講師:材料エネルギー学部 特任教授 三原 毅)をテーマに8月24日(木)に開催しますので、ご参加お待ちしております!

                                     
                                              佐々木 愛 教授の講演の様子

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  研究・地方創生部 研究推進課
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