第98回島根大学サイエンスカフェを開催しました

公開日 2021年06月14日

    第98回島根大学サイエンスカフェを6月11日(金)にオンラインにて開催しました。学外者および本学教職員43名を迎え、「コロナ禍での生き方、行動経済学で読み解く」をテーマに、研究・学術情報本部 地域包括ケア教育研究センター担当、赤井 研樹 講師が講演を行いました。

 

 気付かないうちに最良の選択をさせる仕組みである「ナッジ(Nudge)」について、自由意思にほぼ影響を与えず、それでいて合理的な判断へと導くための制御あるいは提案の仕組みであり、例えば、自治体のイエローテープ作戦(消毒剤までの道しるべをカラーテープで示して手指消毒を促進する)など、禁止、命令によらず矢印に沿って動きたくなる人間の特性を利用して、合理的に目的達成に繋げる例の紹介がありました。一方で、ナッジは万能ではなく、スラッジといわれる透明性のないナッジ、例えば、アメリカのウーバーから仕事終了時前に、パートタイマーへ目的達成まであと僅か等の通知(ナッジ)が長時間労働を誘導する例の説明がありました。

 

 使い方によって良くも悪くも行動変容に繋がるナッジ理論は、八王子市大腸がんリピート検診受診率の改善等、日本の多くの自治体や企業において利用されており、その多様な活用状況の紹介がありました。更に、世界のナッジ活用を推進する政府や公的機関の組織は、日本の1組織に対してヨーロッパは94、アメリカは63であり、また、行動科学(ナッジ)を活用した政策分野は金融から安全・衛生、エネルギー、公共サービス、環境等幅広く、活用範囲の広がりと応用の多様性に関して日本に比べてはるかに進んでおり、よって日本では、まだまだ応用の可能性が大きいとの説明がありました。

 

 また、今回のテーマでもあるコロナ禍での生き方について、赤井講師が研究しているFUN理論を絡めて次のように説明がありました。FUN理論によると「楽しい!」(FUN)という気持ちには前向きな方向へ行動変容を促すパワーがあり、例えば傘を店先に忘れてしまった時、不注意な自分を責めるのではなく、店まで散歩できるチャンスを得た、と捉えるなど、逆境にも楽しみを見つける心の在り方もあることに気づくことは大事であり、コロナ禍だからこそ、今までの認識パターンを改めて、多様な認識を受け入れFUNを見出せる可能性を知ってほしい。また、日本人は謙譲語という、自分の位置を低めることで相対的に相手を高める文化を持っているが、これは行動経済学的には、おかれた立場が不利な状況だと、より喜びを感じやすくなるなど、積極性に繋がる概念とも言え、よって、認識パターンを変えてFUNを見出す素地があるとも考えられる。最後に、赤井講師から、FUN理論を活用してコロナ禍を乗り切ろう!とのエールが送られ、講演を終了しました。

 

    講演後の質疑応答では、子供におもちゃの片付けをさせる時、ついお菓子で誘導してしまうが、ナッジ理論を活用した効果的な方法は?等の具体的かつ熱心な多数の質問があり、講師から、お菓子で誘導は単にインセンティブであり、同じ色のおもちゃを同じ色の箱に入れる、箱に詰めると音が出る等FUN理論を適用したナッジで誘導するアイディアが出されるなど、丁寧な説明を得て、盛況のうちに終了しました。

 今年度のサイエンスカフェのスケジュールは6月末に本学ウェブサイトに掲載予定です。
    引き続き、皆さまのご参加をお待ちしております。

 

                
               赤井研樹講師の講演の様子

 

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