第117回島根大学サイエンスカフェを開催しました

公開日 2024年03月07日

第117回島根大学サイエンスカフェ
新型コロナウイルスとmRNAワクチン~感染症大流行のその後~
 日時:令和6年2月21日(水)15時~16時10分
 講師:島根大学 医学部 微生物学講座
 准教授 飯笹 久

 今回はウイルス学専門の飯笹 久 准教授が「新型コロナウイルスとmRNAワクチン~感染症大流行のその後~」をテーマに講演しました。  
 昨年5月にインフルエンザと同等の5類へ移行した新型コロナウイルス。私たちの生活もほぼコロナ禍以前に戻り、新型コロナウイルス関連の報道も少なくなりました。
 しかし、現在も10波となる、オミクロン株から派生したJN.1株の感染が続き、依然後遺症に悩む方もいます。新型コロナウイルスの流行は終焉したのでしょうか。今後もワクチン接種は必要なのでしょうか。

 講演の前半では、「新型コロナウイルスの基礎知識」として、新型コロナウイルスの発生から2021年以降のオミクロン株流行までの経緯を振り返り、ウイルスが持つ病原性や感染症状の特徴について解説がありました。また、新型コロナウイルス感染の抑制に大きく効果があった「mRNAワクチン」のしくみや作用機序に触れた後、感染症発生からわずか1年未満というスピードでのワクチン開発の実現は、カタリン・カリコ博士らによる長期的なRNAの基礎研究をはじめ、治験時期の工夫など、様々な要素の組み合わせによるものであったと話しました。  飯笹准教授は、mRNAワクチン接種の効果について、(1)流行株の型がmRNAワクチンと合うと発症率を100分の1に抑制する、(2)どの変異型に対しても感染を抑える効果があり、5~18歳にも効果がある、(3)未接種の場合、オミクロン株でも致死率はインフルエンザの5倍高いが、接種すれば2倍程度に下がる。(4)ワクチン接種は、後遺症症状を73%抑制するなど、データを示しながら丁寧に説明しました。  

 このように効果を示したmRNAワクチンですが、副反応が強いわりにウイルス変異によって、以前と比べて発症予防効果が数カ月程度しか持続しないことが問題です。副反応の弱い長期間の免疫効果が持続できるワクチンの開発が期待されます。  
 そこで最近日本で認可されたのが、「自己増殖型mRNAワクチン(レプリコンワクチン)」と呼ばれる次世代mRNAワクチンです。その特徴は、RNAを投与すると細胞内で増殖するため、モデルナワクチンの20分の1以下という少量のRNA投与ですみます。副反応の抑制、コストの削減、長期間の効果持続が期待されています。ベトナムで行われた臨床試験では、どの年齢群でも新型ワクチンの中和抗体価が高く、特に高齢者で顕著に高くなっており、長期の免疫効果が持続できる可能性があるようです。日本での販売は今年の秋頃を予定しています。治験が進めば、更に詳細な効果がわかってくるとのことでした。今後ワクチン接種する方にとって期待が膨らむお話でした。  

 また、現在流行中の「JN.1株」は、2月8日時点で全体の63.9%を占めており、他のオミクロン派生株と比べて感染力が高いこと、風邪のウイルスに近づいているが他の呼吸系ウイルスよりは病原性は高く注意が必要であること、現行のワクチンの効果はあるとの説明がありました。  
 治療薬は、軽症者に対する薬の開発が課題であり、飯笹准教授自身も既存の薬とは標的が異なる、併用可能な薬の開発を進めているそうです。  

 最後に新型コロナウイルスの終焉について、飯笹准教授は、「ワクチン接種により、病原性はインフルエンザ並みとなり、重症者への治療法も確立している。しかし、新型コロナウイルスの病原性は高く、世界中で今も流行している。またコロナ後後遺症の問題も依然としてある。感染した場合には、できるだけ早く、基礎疾患がある方や高齢者は特に速やかに、医療機関で治療受けてほしい。ワクチン接種は利点と問題点を理解して接種を考えて欲しい。」と締めくくりました。

 質疑応答では、参加者から多くの質問がありました。講演終了後のアンケートでお寄せいただいた質問の回答は、本学サイエンスカフェサイトの下記にも掲載しておりますので、ご覧ください。  
 参加者からいただいた質疑と回答(掲載02.26)  

 今回は34名の参加がありました。ご参加いただいたみなさまありがとうございました。  
 令和5年度のサイエンスカフェは今回で終了となります。令和6年度もよろしくお願いいたします。

 
 
                  飯笹准教授の講演の様子

                                             

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  研究・地方創生部 研究推進課
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