公開日 2023年08月10日
2023.6.5
今回インタビューさせていただいたのは、人間科学部心理学コースの高見友理先生です。
前回取材した石原宏先生と同じく私たちが所属する人間科学部の教員であり、1年時の指導教員でもありました。
この記事を通じて、高見先生の素敵なお人柄が伝われば幸いです。
前半では高見先生ご自身についてお聞きしました。
【高見友理先生 プロフィール】
●研究分野:臨床心理学
●研究テーマ:分析心理学的心理療法・風土心理研究・被害者支援
●担当教科:風土心理研究
【目次】
ー 心理に興味を持ったきっかけ
ー 大学時代の学び
ー 今の大学生におすすめすること
ー 現時点で自分はどんな人だと思うか
■進路に揺れた学生時代
Q:心理に興味をもち始めたのはいつですか?
高見先生 高校生ぐらいからだったかな。学部選びを心理が学べるところということで、当時の(島根大学)教育学部に所属していました。でも、入学してからも心が揺れました。当時水泳ばかりやっていたから、真っ黒になりながら(笑)
だけど、教育実習とか行くときに、やっぱり向いてないなっていうのは思いましたね。集団を扱うとか、リーダーシップを発揮するのはちょっと自分には無理だなって。
1対1のカウンセラーの方が自分には合っているのかなっていうのは思いました。
でもその後、大学で学生に講義するなんて思ってもみなかったですね、皮肉なものですよ。(笑)
ーーーその時(教育実習)の経験が今に活きていたりするかもしれませんね
高見先生 多少あるかもしれませんね。まあ決して授業が上手ではないと思いますが、受講生の人にとって、なるべく分かりやすく…と考えたりしますね。
自分の進む方向性は、大学生のうちには定まらないこともあるかもしれないし、たくさん揺れるのは当然かなとも思いますね。
■”こころの奥深さ”に惹かれ心理の道へ
Q:大学時代はどんなことを学んでいましたか?
高見先生 私は島根大学出身なのですが、当時の先生がどちらかというとロジャース派だったので、ユング派の考え方にちゃんと触れたのは社会人になってからですね。きっかけはスーパーバイザーという、指導してくださる先生と出会ってからでした。
ーーー当時から心理職に就きたいという思いがあったのですか
高見先生 そうですね。大学一年生のときに自分は普通に生活することはできても、なんかこう他の人が普通にできることが自分には頑張らないとできない、とかいう経験もあって、一般職に就くのは難しいのではないかと思っていたこともありました。
それ以外でも、心理学を学んで知ることのできる“こころの奥深さ”にも興味があったので、そこからカウンセラーの仕事に興味をもち始めたというところですかね。
ーーーそうだったんですね。高見先生はどんな学生だったのですか
高見先生 あまり熱心な学生じゃなかったと思いますね。ごく一般の。今の学生さんよりももっと不真面目だったんじゃないかな。時代がね、そういう時代だったかもしれませんけど。
■「大学に来て、いろんな選択肢があるなあっていうのは発見した気がします」
Q:今の大学生に向けて、こういうことをしておいたらおすすめだよということはありますか?
高見先生 いろいろな人と出会うことかな。それは大学内外どっちでも。
高校と大学の違いってやっぱりそこだと思うんですね。いろいろなタイプの人と出会ったりとか。
生まれて育った地域の中だとなんとなく価値観も似通っているけど、大学は自分も全然違う場所に来て、全然違う場所で育った人が来る。
そのこと自体が異文化だと思うけど、その中でも今まで出会ったことのない生き方をしている人と出会ったり。バイトなんかでも世界が広がると思う。
大学ってそういうところがスペシャルな感じがしますね。自分の家族とか親戚の中では居ないタイプの人に出会えるので。
ーーー高校生の時は接する大人って親戚ぐらいしかいませんよね。
高見先生 そうですよね。学校の先生とか、地域の大人とかね。やっぱり、大学に入ってビックリすることは結構多かったような気がしますね。
ーーー印象的な出会いがあったんでしょうか?
高見先生 県外から来る人と出会うだけでも、自分の知っている世界とは違うとか。
自分の世界が広がるっていうのは大学の良いところなんじゃないかなって思います。
ーーー先生自身もそういった経験があったんですか?
高見先生 そうですね、小さい規模だったと思うけど、部活の先輩後輩との出会いとか。
あと、大学の先生は一つ先を歩んでいるというか。研究に没頭している先生とかもいるじゃない。「あ、こういう大人もいるんだな」って、すがすがしいな、というか。ロールモデルとまでは、実際どうか分からないけど(笑)
私の家は商売している家だったから、大学ではやっぱりなんかちょっと違う大人に出会うって感じがしました。
コミュニケーションをとって交流・人脈を広げて、どうやってお金稼ぐかっていうような商売人の考えとは違って、大学の先生は一つの探究したいことに向き合うとかね。研究の世界でも人脈は絶対必要なんだろうけどね。
大学の先生を見てこういう生き方もあるんだなーっていうのは思いました。
そのときは大学の先生になろうとは思っていない時期でしたけどね。
ーーーそのとき、商売人というより、研究の方が興味あるなと思っていらっしゃったんですか?
高見先生 そうですね。私は数字がとても苦手なので、会社員とか銀行員とか、そういう世界では多分無理と思っていました。
自分の身近な世界の中で、自分が生き延びることができそうな場所っていうのがよく分からなかったけど、大学に来ていろんな選択肢があるなあっていうのは発見したような気がします。
ーーー石原宏先生への取材の時も、こういう話題で銀行員が例にあがっていました。銀行員ってそういうことの代表なんですかね?
高見先生 そうかもね。お客様あっての仕事で、売上ノルマがあって営業しに行く人とか。今はだいぶ違ってきているのかもしれないけど。
多分そういうのが自分に向いていないのではっていうのはあったんだろうと思います。
でも、自分がそういう文化というかバックボーンを持っているから、カウンセラーの仕事をしていて有利に働く面もあるのかもしれないし。
若い世代の時に否定していたものが意外と今役に立っていることがあるかもしれないですね。
ーーーなんか響きますね。
高見先生 ちょっとだけ長く生きてきたから気づいた面もあるけどね。
ーーー若い頃は結構そういうことで悩んでいらしたんですか?
高見先生 そうですね。なんか、普通に社会生活をやっていくイメージが掴めなかったんだろうね。何かを売って利益を得るとか、ちょっと分からない世界っていうか。
若い世代の人も、今は転職も当たり前になってきたから、本当に自分のやりたいことや、居心地のいい場所とかを探索するのが当たり前の時代になってきているのは、いいことなんじゃないかな。
自分のことって結構分からないものですよね。何歳になっても自分のことはよく分からないですよ。だから自分に何の職業が向いているか、やってみないと分からない。
ーーー確かに。自分のことは分からないです。
高見先生 みんなそうだと思うし、自分もそうでした。でも、やっていくうちに見えてくるんですかね。それか、一生模索するのかもしれないけどね。
■「やりたいことをするのが一番っていうのは、今思っていることです」
Q:先生は現時点で自分のことをどのような人だと思われますか?
高見先生 自分のことを…どんな人なんだろうな。そうだね、難しい質問ですね。
ーーーお話を伺っていて、私も先生と似たような感覚があるなと思いました。大学生になって心理学とかを学んで、いろいろな人を見て、ここは違うかもとかこれ同じかもっていうのが分かってきたような感じがします。
高見先生 そうですね。自分とは違う個性の人と出会わないと自分が見えてこないというのもありますね。
私は、研究よりも臨床(相談)活動に軸足を置いているタイプだと思います。でも、もっとそれを研究にしていかなきゃいけないという課題を抱えているところです。
…どんな人かの質問には答えてないか(笑)
どんな人か…。そうだね。実は結構自由な人だったんだと思います。自由を求めてのびのびとやりたいことをするのが一番の喜びだなあっていうのは、だいぶ歳をとってから分かるようになりましたね。
それまでは「いい人でいなきゃいけない」みたいな縛りが強かったと思うんですよ。期待されているであろうことを想像して、「こうじゃなきゃいけない」とか。
ちょっと自由を自主規制してるっていうか。外からこうしなさいって言われたわけじゃなくて、「こうあるべきなんじゃないか」「こういうことはしない方がいいんじゃないか」とか。
社会的な役割みたいなことに囚われていたかもしれないです。でも、やりたいことをするのが一番だねっていうのは、今思っていることですね。
ーーーそのことに気づいた理由やきっかけはありましたか?
高見先生 自分のやりたいことをやって誰がどう思おうが、誰にも興味を持たれてなかろうが、自分の書きたいことを書いたらいいんだよなって、最近思い始めている感じですかね。そうしていくうちに、自分のテーマが見つかってきたというか。
目の前のことをやっていたら、気がついたら今に至るみたいに、感覚的な人間なので、考え抜いてやっているわけではないんです。ちょっと大学の先生に向いてないかもしれないとか、もうちょっと思考で考えたほうがいいのかなと思う部分はあります。
例えば、ジブリのプロデューサーの人が、対照的な2人の女の子の話をなさってて。
ジブリの「魔女の宅急便」の主人公・キキは、‘必要に迫られて目の前のことを解決していく’っていうタイプですよね。一応、魔女になるっていう方向性はあるんだけど、何か野望があってというわけじゃなくて、目の前のことをやっていく子。
それに対して、「耳をすませば」の主人公・月島雫ちゃんは、小説家になりたいってすごい明確な野望や目標があって進んでいく子。
確かにそういうタイプの違いはあるなと思いましたね。私は、あまり計画性はないけど、目の前のことをやってきたら、気がついたら今の立場を与えられています。
「絶対学校の教員になろう」というような野望があったら、今とは違った人生になっていたかもしれない。
まあ、どっちのタイプでなきゃいけないってこともないし、どっちでもいいと思いますが、世の中的にはちゃんと野望や目標があって突き進んでいく方を推奨されていますよね。でも、みんながみんな、そちら側ではないような気もします。
模索の中で気づいていく部分もあるので、軌道修正しながらね。
身近な人から生き方とか考え方って吸収するけど、一旦吸収したとしても自分の中に根付くかどうかはまた別の話ですよね。
自分の性格に合った生き方っていうのが見つかっていくんじゃないかなって気はします。 大学生のうちは模索で全然オッケーだと思います。
ーーー安心しました。
高見先生 全然オッケーです。模索したり苦しんでいる体験をした人こそ、もっと他の人のことが理解できたりもするし。
言われたことがすぐにできちゃったら、できないという状況が想像の中に入ってこないから分からないわけじゃないですか。経験はなんでも自分の血肉になるのかなと思いますね。
ーーー模索する上でもやっぱり人との出会いがあったほうが、いろいろ得られますよね。
高見先生 はい。みんな模索中なのかな?
ーーー絶賛模索中です。
高見先生 当然そうだよね。見つかるまでは苦しいですけど、迷って、いろいろ模索して失敗してもいいから、自分のことと照らし合わせて、自分にこれが合うというものを探して欲しいです。
最後までお読みくださりありがとうございます。
また、取材にご協力いただいた高見友理先生、ありがとうございました。
〈〈インタビューを終えて〉〉
記事前半での「若い世代の時に否定していたものが意外と今役に立っていることがあるかもしれない」というお話が印象的でした。今の自分には気づけない、むしろ嫌だと思っていることが、良いことや面白いことだといつか分かる日が来るかもしれないと思うと、ワクワクします。
進路のことや自分のことについて悩みは絶えないですが、今回のお話を聞いて、悩んでいる自分を認めることも素敵なことだと感じました。生活をしていく中で自分にあったものを見つけられるように、これからも模索していきたいと思います。
後半では高見先生の研究についてお聞きしました!
是非、合わせてお読みください。
(後半)https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2023080900037/
(学生広報サポーター 取材・撮影 淺井明日葉、綾部珠咲)