第155回アシカル講座「戦争の歴史を伝える~日本と世界の戦争博物館」を開催しました。

公開日 2025年09月11日

講座の様子

9月6日(土)​、第155回アシカル講座「戦争の歴史を伝える~日本と世界の戦争博物館」を開催しました。この講座は、令和7年度アシカル講座第1ステージ「戦後80年、戦争の記憶を学び、伝える」の最終回になります。

今回は、会下和宏 本学総合博物館館長・教授が、日本と世界の戦争博物館やそれらの意義・課題について解説しました。

最初に、歴史とは常に現代の視点で過去を振り返り叙述されるものであること、博物館の歴史展示も現代社会の環境のなかで特定のメッセージ・文脈に基づいて提示されていること、などの説明がありました。戦争博物館をはじめとする博物館の展示を見学する際は、展示内容がその時々における社会環境の影響を受けていることを認識し、博物館のメッセージが「正しい」という先入観にとらわれず学んでいく態度が求められるようです。

次に、日本の戦争博物館についての紹介がありました。広島平和記念資料館では展示リニューアルに際し、被爆人形ジオラマ展示の撤去をめぐって論争があったこと、ピ-スおおさか(大阪国際平和センター)や沖縄平和祈念資料館では、展示内容をめぐって政治的な議論があったことなどが紹介され、近現代史の戦争展示の難しさが認識されました。

このほか、大久野島毒ガス資料館、江戸東京博物館、ひめゆり平和祈念資料館、大和ミュージアム、知覧特攻平和会館、Soraかさい 鶉野ミュージアム、遊就館などについての紹介がありました。

次に、世界の戦争博物館では、ヨーロッパや中華人民共和国の戦争博物館、国立アウシュビッツ・ビルケナウ博物館、ベトナムやラオスのベトナム戦争に関わる展示などについての解説がありました。アメリカ合衆国では、スミソニアン航空宇宙博物館で1995年に企画された原爆展が、政治的圧力によって展示内容に変更がなされたという事例が紹介され、国境を越えた歴史認識共有の難しさを感じました。しかし、近年では、ハワイの戦艦ミズーリ記念館で特攻隊や原爆についての展示がなされるなど、ナショナリズムを克服して、戦争に対する人類共通の普遍的な問題意識に基づいた展示がみられるようになってきているようです。

最後に、戦争博物館は様々な戦争関連資料の収集保存を進めていくべきこと、展示物は史料批判を経た歴史学的に検証されたものであるべきこと、歴史とは多面的で複雑であり、展示においては複眼的で様々な視点・文脈・意見を提示する必要性が求められること、実物資料である戦争遺跡の保存・活用の必要性などの課題が示され、講座の締め括りとなりました。

※島根大学総合博物館では、9月27日(土)まで、アシカル企画展「戦後80年、島根の戦争の記憶」を開催中です。皆様のご来館をお待ちしています。

お問合せ先:島根大学総合博物館 TEL:0852-32-6496