公開日 2025年10月17日
10月15日、本学の講義「ライフキャリアデザイン」(丸山実子准教授)の一環として「NHK大学セミナー」が開催され、ゲスト講師としてNHKコンテンツ制作局のチーフ・ディレクター、山登宏史(やまと ひろし)氏が登壇しました。山登氏は、Eテレの人気番組「ねほりんぱほりん」の制作に携わる方です。今回のセミナーでは、番組制作の舞台裏や、人の話を聞くことの奥深さについて、貴重なお話を伺うことができました。
「わけあり」の背景に光をあてる番組制作
セミナーは、山登氏が手がける「ねほりんぱほりん」の紹介から始まりました。この番組は、「顔出しNG」の訳ありゲストがブタの人形に、聞き手の山里亮太さんとYOUさんがモグラの人形に扮し、赤裸々な本音トークを繰り広げる人形劇ドキュメンタリーです。
山登氏は、「やばい職場の採用担当者」や「マッチングアプリで真剣に婚活する人」といった刺激的なテーマを例に挙げ、普段は光が当たりにくい人々の本音や社会の断面をどう切り取っているかを解説。面白おかしい表現の裏側にある徹底したリサーチと、出演者との真摯な向き合い方について語られました。
映像から学ぶ「家族」のカタチ ― 養子というテーマ
セミナーの中核をなしたのが、「養子」をテーマにした回の上映でした。特別養子縁組で家族となった当事者の体験談が語られるVTRを、学生たちは息をのんで見守りました。
6歳の時に養子であることを告げられた時の葛藤、戸籍で事実を知るのではなく親から伝えられることの意味、「血の繋がり=家族」という当たり前だと思っていた価値観が揺らいだ経験など、当事者の生々しい言葉に参加者は引き込まれていました。
学生の問いと講師の応答:活発な質疑応答
上映後には、質疑応答の時間が設けられました。
ある学生からの「取材をする中で、ご自身の価値観が変わった経験はありますか?」という質問に対し、山登氏は「わが子を虐待した人」を取材した経験に言及。「加害者にも、そうなってしまわざるを得なかった環境や背景がある。単純な善悪二元論では計れない人間の複雑さを常に意識させられる」と、取材者としての深い洞察を語りました。
また、キャリアに関する質問では、「10年間は番組制作が上手くいかず苦しんだが、『ねほりんぱほりん』を始めて、自分は人の話を聞くのが好きなんだと気づいた。自分の『好き』が何かを考えることが、仕事を楽しむ上で大切かもしれない」と、自身の経験を基にした温かいアドバイスを送りました。
参加者の声
セミナーに参加した学生からは、多くの刺激を受けたという声が寄せられました。
法文学部・1年生
「今回の講義で番組を観て、養子というテーマに深く向き合いました。特に、いつ事実を告げるのかという点で、番組では幼い頃に事実を知った方の葛藤が描かれており、早く伝えることで親は気持ちが楽になるかもしれませんが、子供はそれを理解できずに苦労するのでは、と感じました。普段はきっかけがないと考えないようなテーマについて、深く思考するとても良い経験になりました。」
総合理工学部・2年生
「養子など、これまで深く知らなかったことについて分かりやすく知ることができました。世の中には本当にいろいろな人がいるのだと感じました。」
生物資源科学部・2年生
「普段から番組を見ていたので、どのように作られているのかを知れて面白かったです。今回のお話を聞いて、自分の価値観を広げるためにもっと多くの人と出会いたいと思いました。」
取材を終えて
普段SNSを見る時間が多く、今は効率を重視して誰かが切り取った内容や、端的にまとめられた情報に触れることが多くなっています。今回、NHKが制作された「ねほりんぱほりん」をフル尺で視聴し、普段SNSでは得られない感覚、心が大きく揺さぶられる体験をしました。養子に対する考え方も、このセミナーを通して自分の中に新しく築き上げられたように感じます。
この経験から、メディアで発信することの重要性と責任の大きさを実感しました。社会に大きなインパクトを与えるディレクターという仕事について山登さんから直接お話を伺い、メディアの持つ力と、その必要性を改めて考える貴重な機会となりました。
(ライターA.T)
様々な社会問題が浮き彫りになる中で、同世代はどのように感じるのだろうか。そんな思いを持ちながら、今回の取材に参加しました。セミナーに参加した同世代の学生の話を聞く中で感じたのは、彼らが社会問題に関心がないのではなく、その情報を自分ごととして上手く受け取れていないだけなのだということです。
私自身、他大学で出版社の編集部にも関わり、「伝えること」と「伝わること」の違いは紙一重であると日々感じています。その重みを背負いながら社会と向き合い続ける山登さんのような方がメディア業界にいるのだと知り、勇気づけられました。どんなキャリアを描くべきか、そこに明確な答えはありませんが、改めて自身のこれからを深く考えさせられる機会になりました。
(ライターM.A)